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第31回 現代日本語研究会ワークショップ報告

31回 現代日本語研究会ワークショップ報告

第31回(2022年度)のワークショップは、2022年7月2日(土)と3日(日)にZoomを用いたオンラインで実施した。参加者は会員・非会員問わず広く募り、80名の参加申し込みがあった。

ワークショップの初日は、会員の発表3件と非会員の発表1件が行われた。日本語学習者の文章や、ジェンダー(とことば)に関して、活発に議論された。2日目は、会員の発表2件と非会員の発表2件、および意見交換会が行われた。口頭発表では、自然会話における話題の導入、医学用語や介護での言語行動、ビジネス日本語に関して議論された。意見交換会ではコーパスを使った研究について、話題提供者と参加者が活発に意見を交わした。最後に、現代日本語研究会代表から研究会の紹介と入会案内があり、ワークショップはお開きとなった。

 

第31回ワークショップの日程および研究発表の要旨は次の通りである。

【日程】

7月2日(土)

研究発表

小林美恵子 上級学習者の文章に見る誤用(小論文添削から)

斎藤理香  アメリカの山田わか:秘められた記憶と記録

馬雯雯   「女子」とそれを前接語とする「女子力」に関する研究

西澤萌希  「性」から見る自称詞キャラクタ

-少年マンガの《オレ》《ボク》《ワタシ》《アタシ》-

7月3日(日)

研究発表

方敏    日中の知り合い同士の会話における「恋愛」という話題の導入について

遠藤織枝  昭和初期の医学用語改訂とその後

大槻薫子  日本人介護職員と外国人技能実習生の言語行動比較

―レクリエーション活動場面に焦点を当てて―

叶暁峰   ビジネス日本語教材における非言語コミュニケーションの関与

意見交換

コーパスを使った研究 話題提供者:三枝優子、加藤恵梨

 

【研究発表の要旨】

上級学習者の文章に見る誤用(小論文添削から) 小林美恵子

要旨:本年3月まで大学で留学生を中心とする日本語学習上級者対象のクラス「映画を通して考える日本の社会とことば」を担当した。授業では日本映画を1本見るごとに、そこで使われる日本語について気づいたことを小論文として書き、1期の授業で6回の提出を課した。提出されたものについてはすべて添削し、そこでの問題提起をもとに発表・討論などを行った。

受講者は大学の基準検定での上級者(概ねN2以上)であるが、添削してみるとかなりの誤用が見られ、またそこにはある種の傾向があるとも思われる。たとえば助詞の取り違えなど初歩的な文法ミスもあり、難しい語を使い複雑な構文を書こうとして成功しないなど上級学習者ゆえの誤用も見られるし、それらには学習者の母語による傾向差などもあるようだ。本発表では、それらの誤用をデータ化して整理し、どのような誤用があるのか、学習者によって誤用の傾向があるのか、その原因は何か、改善の方策なども考えながら、論じたい。

 

アメリカの山田わか:秘められた記憶と記録 斎藤理香

要旨:本発表では、『ことば』誌で2010年から連載している山田わかの評伝「大正ロマンの生んだフェミニスト:山田わか・嘉吉の協働と思想」(以下「わか・嘉吉」)でまだ記述していない史料を紹介する。山田わかは、1896年頃から1906年頃までをアメリカ西海岸で過ごした。渡米の目的はいわゆる出稼ぎであったが、不幸なことに人身売買の罠にはまり、シアトルの娼館で働かされた。数年後にサンフランシスコのアジア系移民女性の救済施設キャメロンハウス The Cameron Houseに逃げ込み、そこに滞在中、将来の夫・嘉吉と出会ったとされている。筆者は、2014年にキャメロンハウスを取材で訪れ、わかがたしかにそこにいたことを示す史料を「発見」した。この取材旅行では、わかの1937年における「遣米婦人使節」としてのアメリカ「再訪」の足跡が辿れる当時の日系新聞の記事も入手し、『ことば』36号(2015)の「わか・嘉吉」(その6)で報告したが、キャメロンハウスにあった史料については発表していなかった。あらためて、その史料とそれを入手できた経緯などについても報告したい。

 

「女子」とそれを前接語とする「女子力」に関する研究 马雯雯

要旨:本研究は、「女子」とそれを前接語とする「女子力」を考察するものである。分析に際に、まず、先行研究を踏まえながら、「女子」の使用・用法・意味について、分析する。次に、「女子」の用法上および意味上の変化に焦点を当て、分析を行う。そして、「女子」を前接語とする「女子力」をWest&Zimmerman(1987)に提出された「ジェンダーする(doing gender)」という概念を結びつけて、分析する。分析した結果、「女子」は伝統的意味を持つ「女子」と新しい意味を持つ「女子」に分けられることができること、「女子」は時代の変化につれ、新しい用法・意味が賦与され、使われるようになることを明らかにした。「女子」を前接語とする「女子力」も新しい用法・意味が賦与された「女子」からできた一語として位置づけられること、「女子力」は「ジェンダーする(doing gender)」という概念を表すことばであることが分かった。

 

「性」から見る自称詞キャラクタ-少年マンガの《オレ》《ボク》《ワタシ》《アタシ》-

西澤萌希

要旨:日本語は、他と比べて多くの自称詞を持つ言語とされる。そのため、日本語社会においては、自称詞使用の選択に迫られることになる。従来、自称詞選択の基準として聞き手との関係性や場面の公私が指摘されてきた。発表者はそれらの背景に、自称詞と人物像の結びつきが想定されている、という共通点を考える。実際、日本語話者が自称詞を巧みに使用して自己を表現しようとする姿は多く取り上げられる。ことばと人物像の結びつきと言えば、近年、ジェンダーに関する変化も多く取り上げられる。特に、ことばの男女差が少なくなってきたというものである。以上を踏まえ本発表では、男性の自称詞とされる「オレ」「ボク」、女性の自称詞とされる「ワタシ」「アタシ」に注目し、少年マンガにおいて、それらの自称詞を使用する人物が他にどのような言語要素を使用するのかを分析する。そして、具体的にどのような人物像と結びつくのか、またそれらの類似点、相違点等関係性を考察する。

 

日中の知り合い同士の会話における「恋愛」という話題の導入について 方 敏

要旨:今まで話題に関する先行研究は初対面会話を中心になされてきた。初対面会話においてプライバシーにかかわる話題は相手の領域を侵害する恐れがあり、危険な話題として取り扱われ、回避されることが明らかになった。一方、初対面以降の会話を対象とした方(2021)により指摘されるように、知り合い同士会話においてプライバシーにかかわる話題が観察された。これらの話題は、当たり障りのない話題に比べ相手の領域に踏み込む可能性が高いが、場合によっては参加者の間の心的距離を縮め、親密さを促進する効果がある。プライバシーにかかわる話題の捉え方は、母語や母文化などにより影響されやすいと思われる。さらに自己に関する情報のうち、最もプライベートな「恋愛」という話題は母語間に相違が大きいため、本研究では「恋愛」という話題に着目し、日中の会話においてそれぞれどのように導入するか分析した。

 

昭和初期の医学用語改訂とその後 遠藤織枝

要旨:1930年代に漢字制限と国語の整理を巡って国語改革運動が起こっていた。その中で国語愛護同盟という国語の混乱を憂慮する知識人のグループが積極的な活動を行っていた。中でも医師たちの医学部会の活躍は目覚ましく、医学用語改定に向けて具体的に提案をしていた。その結果1944年には第一次選定として約1万語の用語集が刊行された。その中の用語で、従来のものを改訂した語について、それらが1944年以降受容されたか否かを検討する。介護用語の平易化を望むものとして、医学用語の改訂にどのように学ぶかを考えたいと思う。

 

日本人介護職員と外国人技能実習生の言語行動比較―レクリエーション活動場面に焦点を当てて― 大槻 薫子

要旨:本研究は、外国人技能実習生を受け入れている介護施設において、普段の業務中に利用者とどのような日本語を使用してコミュニケーションを取っているのかを日本人職員および技能実習生双方のデータから比較するものである。昨今の日本の介護分野では人材不足の課題から外国人材を受け入れる姿勢が顕著である。しかしながら、外国人材の言語不安やコミュニケーション不安の観点から積極的に受け入れることが出来ていない現状もある。したがって、本発表では、そのような施設側が抱く言語不安を解消するための一助として、技能実習生の業務中の日本語使用(言語行動)の実態を事例研究として紹介するものある。また、日本人介護職員とも比較し、言語行動の視点でどのような異同がみられるのか考察する。本研究のデータ資料は、介護業務のひとつである「レクリエーション活動」場面であり、業務の中でも比較的利用者とのやりとりが多い場面をとりあげている。

 

ビジネス日本語教材における非言語コミュニケーションの関与 叶暁峰

要旨:実際のビジネス場面におけるコミュニケーションでは、適切な言語使用のほか、場にあった非言語コミュニケーションが行えることも求められる。日本での就職を目指す学習者にとって、言語面はもちろんのこと、ビジネス場面の非言語コミュニケーションについての指導も必要性が高いと言える。本研究では、ビジネス日本語教材を研究対象とする。日本語学習者の仕事に必要とされるビジネスマナーを、ヴァーガス(2004)の非言語コミュニケーションの分類に基づき、考察を行う。さらに、注意すべき非言語行動を提示することを試み、ビジネス場面における非言語コミュニケーションの重要性を確認した。また(一)ボディ・メッセージ、(二)動作と表情、(七)対人的空間、(八)時間の4項目に関わる記述内容が他の項目に比べ顕著に多く、これらがビジネス場面において大切な役割を果たしていることを明らかにした。これらの結果より、言語だけでなく、非言語をも視野に入れた広義のコミュニケーション観を日本語教授者や日本語学習者に与え指導を実践することが、日本語学習者のビジネスマナー能力向上につながると考える。

 

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