現代日本語研究会
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2024年度 現代日本語研究会研究集会報告

2024年6月30日(日)にオンラインで研究集会を開催した。今年度の研究集会は会員・非会員合わせて約70名の事前参加申し込みがあったが、当日の実際の参加者は40名前後であった。研究集会では、11件の研究発表が行われ、そのうち会員による発表が7件、非会員による発表が4件であった。

今年度の研究集会ははじめてオンライン形態で2つの会場に分けて行われた。A会場では談話分析や言語行動を扱った研究発表、B会場では語彙や表現に関する文法についての研究発表が行われた。また、両会場ともに参加者からの質問やコメントが多く寄せられ、活発な議論がかわされた。

今年度のプログラムおよび研究発表の要旨は次の通りである。

 

【プログラム】

6月30日(日)9:30〜14:15

9:30〜9:40 開会の辞

本田明子(現代日本語研究会代表)

A会場 B会場
9:40〜10:10

口頭発表1

日本人社会人を対象とする非言語コミュニケーションに関する意識調査

 

叶暁峰(早稲田京福語学院/東京福祉大学)

ヒマ節におけるテイル形について

 

黄勇(浙江師範大学)

 

10:15〜10:45

口頭発表2

中国人女子大学生のテキストチャットにおける「怼(dui)」の受け手の言語行動について

―非対称的反応を中心に―

 

方敏(東華理工大学)

『坊っちゃん』の児童向け及び日本語学習者向けのリライトにおける文章のやさしさとわかりやすさ

―統語面を中心に―

 

湯浅千映子(大阪観光大学)

10:55〜11:25

口頭発表3

大学生の初対面交流会話における参加者の調整行動

―母語場面と接触場面の先輩と後輩の関係性に注目して―

 

小林友美(立教大学)

「でござる」の統語機能の変化に関する一考察

 

劉天陽(岡山大学大学院)

 

11:30~12:00

口頭発表4

予備的装置としての「デハナイカ」:連鎖組織の視点から

 

梅村弥生(千葉大学大学院)

現代日本語における外来語造語成分の分類

 

王雨(東北大学大学院)

12:00〜13:00 昼休み
13:00〜13:30

口頭発表5

課題解決場面における不同意の談話展開

―日中母語話者の比較を通して―

 

王昌(筑波大学大学院)

「硬さ」を表すオノマトペの意味拡張について

―「ゴリゴリ」を例として

 

葉書辰(筑波大学大学院)

13:35〜14:05

口頭発表6

SNSを用いたテキストメッセージに伴う感情の表出について

―日本語母語話者とマレー語母語話者の比較―

 

稗田奈津江(筑波大学)

14:05〜14:15 閉会の辞

李文鑫(現代日本語研究会行事担当)

【研究発表の要旨】

日本人社会人を対象とする非言語コミュニケーションに関する意識調査(叶暁峰)

本研究は叶(2023)の滞日経験のある中国人日本語学習者に行った非言語コミュニケーションの意識調査の結果である。日本人社会人を一般社会人グループと国際交流グループに分け、外国人に対する日本社会の受容度に関する意識の相違をカイ二乗検定によって分析した。一般社会人グループと国際交流協会グループともに日本で生活して働く外国人に「職場で匂いの強い食べ物を避ける」、「時間の意識」(一般社会人グループ:「遅刻しない」;国際交流協会グループ:「プライベートの時間に仕事の連絡をしない」)という非言語面の同化行為を強く求めており、受容度が低いことが明らかになった。しかし、一般社会人グループに比べ、国際交流協会グループはより日本社会で生活して働く外国人の非言語コミュニケーションに寛容な姿勢が見られた。

 

中国人女子大学生のテキストチャットにおける「dui)」の受け手の言語行動について―非対称的反応を中心に―(敏)

冗談のフレームで行われる対立・批判を表明する中国語の怼(dui)は「遊びとしての対立」(大津2004)と位置付けられ、友好関係を構築・維持する機能を有する。今行われている怼(dui)は所詮遊びだという認識が参加者間で共有されなければならないため、受け手の反応は非常に重要だと考えられる。そこで本研究では中国人女子大生のテキストチャットを対象に、怼(dui)に対する受け手の言語行動に着目し、それを対称的反応と非対称的反応に分け、後者の下位分類も行った。対称的反応とは受け手が怼(dui)の行い手と似たようなパターンで相手に言い返すもので、それ以外のものは非対称的反応にした。その結果、対称的反応と非対称反応は3対1の割合で、非対称的反応には「拒否・弁解」「笑い」「一緒に遊ぶ」「補償」「無視」という5つの下位分類に分けられた。このうち「拒否・弁解」が最も多く使われており、その後に相手のフェイス侵害のリスクを緩和する「補償」ストラテジーの使用が観察された。

 

「大学生の初対面交流会話における参加者の調整行動―母語場面と接触場面の先輩と後輩の関係性に注目して―」(小林友美)

本研究は、母語場面と接触場面の異学年大学生の初対面交流会話を対象に、先輩と後輩の特徴的な調整行動を分析した。その結果、母語場面では、互いに心的距離を縮めるため、先輩も後輩も共通点を見つけながら会話を進行し、共通性の高い話題を選択していた。また、両者ともあいづちや反応で、相手の発話に理解や興味、共感を示しながら、積極的に会話に参加していた。一方、接触場面では、母語話者の先輩が学習者の後輩に対し、質問で会話を促したり、確認や話題転換、やさしい表現を使用するなどの言語ホストとしての調整行動が確認された。また、学習者の後輩も、意識的に短文や簡単な表現を用いて会話をするといった調整行動を行なっていた。これは、母語話者の先輩への配慮や、先輩も自身と同様の調整行動をしてくれるという期待によるものであった。以上のように、母語話者も日本語学習者も相互に調整行動をしながら会話を展開していることが明らかになった。

 

予備的装置としての「デハナイ↓カ」:連鎖組織の視点から(梅村弥生)

本発表では、日本語学の分野で非分析的否定疑問文と呼ばれる「(ノ)デハナイカ」について、会話分析の中心的考え方である連鎖組織の視点を導入し、出現位置に着目して、分析・考察した。調査データは、20代から50代の男女による420分の自然会話データである。その結果、「(ノ)デハナイ↓カ」(文末が下降の音調)による確認連鎖は、これから行う活動に先立って現れ、本活動にいわば梯子を掛ける役割を担うことが判明した。そこで、本研究では、このような確認連鎖を本来の目的である活動に対して「予備的装置」と呼ぶ。さらに、「予備的装置」について、(1) 極めてアクセスし易いことの確認を行う。 (2)「予備的装置」だけでは終わることはなく、本活動がくる。(3) 殆どの場合、同意の応答がくる。(4) メインの活動で「あれ、それ」など代名詞を用いて、予備装置で確認された内容を取り込んで本活動が開始される。以上4点の特徴が確認された。

 

課題解決場面における不同意の談話展開―日中母語話者の比較を通して―(王昌)

本研究の目的は、談話展開の観点から課題解決場面において不同意が生じる際の日中両言語の共通点・相違点を明らかにすることである。日本語の会話データは『日本語日常会話コーパス』より課題解決場面に当たる10セッションの会話を使用し、中国語の会話データは筆者が中国国内で課題解決場面に当たる10セッションの会話を収集した。その結果、第1の不同意のストラテジーについて、日本語において「否定の理由」のみの使用率が比較的高く、中国語において「否定の理由」を述べる際に、明示性の高い「直接的な否定」の付随が多く見られた。第1の不同意以降の展開パターンについて、両言語共通で「理由述べ合い型」「代案要求型」「確認要求型」「解決策提示型」「相手意思尊重型」というパターンが確認された。不同意の終結の仕方について、日本語における「合意達成」の出現回数が有意に多く、中国語における「小話題転換」の出現回数が有意に多いという結果になった。

 

SNSを用いたテキストメッセージに伴う感情の表出について-日本語母語話者とマレー語母語話者の比較-(稗田奈津江)

本研究の目的は、SNSを用いたテキストメッセージに伴う感情がどのように表出されているのかを、日本語母語話者(JNS)とマレー語母語話者(MNS)の比較を通して明らかにすることである。本研究では、テキストチャットを用いたロールプレイによりデータを収集した。そして、勧誘行動と謝罪行動における主要な意味公式に焦点を当て、非言語情報(記号、絵文字など)の使用数をカウントした。分析の結果、音調を視覚的に示すという点は共通しているものの、JNSは「長音符」(ー)を、MNSは「文字重ね」(例:Jomm)を多用するという、表記文字の影響による違いが見られた。また、JNSは「感嘆符」(!)を多用するが、MNSは「文末絵記号類」を頻繁に省略するという違いも確認された。高コンテクスト文化の典型であるJNSにとっては、自分の発話が本音であることのシグナルを示す必要性が高く、「感嘆符」(!)が感情の真実性を示すのに効果的であることが示唆された。

 

ヒマ節におけるテイル形について(黄勇)

本発表では、先行研究で見落とされがちな時間を表す名詞としての「暇」に導かれる連体修飾節(以下、ヒマ節)を研究対象として検討した。特に、中国語には対応する表現が見られない「Vテイル+暇」という構造に焦点を当て、この構造がどのように使われているか、また何を表すかということについて考察を行った。まず、用法として「Vテイル」が表す事態のあり方をコントロールできる主体の存在が想定されなければならないという制約があることを指摘した。また、主に「~はない」といった否定表現を後接するという特徴がある。次に、意味的には、現実に成立している事態を継続する/現実に成立しておらず話者がそれを成立しているとして認識する事態を実行する時間の余裕を表すものであることを示した。本研究はヒマ節におけるテイル形について考察し、得られた知見が日本語の連体修飾節におけるアスペクトの研究に寄与することを目指す。

 

『坊っちゃん』の児童向け及び日本語学習者向けのリライトにおける文章のやさしさとわかりやすさ―統語面を中心に―(湯浅千映子)

本発表は、『坊っちゃん』の原作と、原作を「児童」・「学習者」という読者層に合わせて書き換えた「児童文庫版」及び「日本語多読教材版」を資料とし、原作の表現と「児童向け」・「学習者向け」の表現を比較し、それぞれの読者にとっての「読みやすさ」や「わかりやすさ」をどのように実現させるのか、構文や文構造、文章構造といった統語上の差異を中心に、リライトの実態を見ていった。「児童向け」・「学習者向け」に共通する書き換えには、「長くて複雑な原文の情報量を少なくして一文化する」・「原作で省略した主語や対象語の付加」・「ヴォイスやテンスの変換」といった特徴がある。一方、「学習者向け」に特有の書き換えとして、「同じ動詞の反復(原作の複数の描写を一つの動詞で表す)」や「(原作の連続する単文の間に適宜)接続助詞『ので』を挿入する」などがある。読者の学習者が読みやすいように書き換える際には、作品中で用いられた語句や文型を繰り返したり、組み合わせたりすることで、文構造や文章の展開をパターン化させていた。

 

「でござる」の統語機能の変化に関する一考察(劉天陽)

本稿は、アニメ作品の忍者・武士キャラクターを特徴づける「でござる」の「名詞のみならず、活用語、挨拶表現にもつく」現象に着目し、その統語機能の変化および要因を考察した。本稿は、4本のアニメから集めた981例の「でござる」の発話例に基づいて考察を展開する。まず、文の立場から「でござる」の用法を四つがあると考察した。それぞれ、①名詞述語・ナ形容詞につく「判定詞の用法」、②イ形容詞と動詞の平叙文と疑問文につき、終助詞に先行する「丁寧さと似ている用法」、③動詞の基本形と一体化し、相手への命令・依頼・勧誘を表す「非明示的な働きかけを表す用法」、④終助詞と独立語文の後ろに付く「キャラ助詞的な用法」である。次に、これらの用法とキャラクターとの関連を考察した。「真剣、自己規律」の武士キャラクターから、「真剣の一面があり、ギャグの一面もある」の忍者・武士キャラクターへのイメージの変化と共に、「でござる」の用法は①から②③④へと変化するというキャラクターの変化と統語機能の変化との関係づけを明らかにした。

 

現代日本語における外来語造語成分の分類(王雨)

本発表では、「本来外国原語では自立形式として用いられる形態素が日本語に取り入れられる際にその自立性を失い、拘束形態素へと変化するもの」の外来語造語成分を分類した。「日本語への定着度」という視点から、「結合率」と「散らばり度」などの指標を組み合わせて点数化した結果、①外来語造語成分は特定の位相において自立用法があるかどうかで、「結合専用の外来語造語成分」と「準外来語造語成分」に分類できた。「準外来語造語成分」は特有の位相を持つ場合に自立用法があるため、「結合専用の外来語造語成分」と自立した「外来語」の中間的な位置にあると位置付けた。②外来語造語成分を数値化し、二次元の平面にプロットすると、3つのグループに分類できた。③外来語造語成分は「日本語への定着度」が高くなるにつれ、自立形式での使用が増加する。また、定着度が高まると形態選択の多様化が進み、多様な形態で使用されることが分かった。

 

「硬さ」を表すオノマトペの意味拡張について―「ゴリゴリ」を例として(葉書辰)

本発表は、「硬さ」を表すオノマトペ「ゴリゴリ」の使用実態を明らかにし、その意味拡張のプロセスやメカニズムを分析し、意味ネットワークを究明することを目的とする。分析データとして、5つのコーパスおよびYahoo!知恵袋の用例を利用する。まず、「ゴリゴリ」の文法機能や統語的特徴を考察し、その使用実態を把握する。次に、コーパスから収集されたデータを基に、「ゴリゴリ」の複数の意味やプロトタイプ的意味を認定する。さらに、「ゴリゴリ」の複数の意味の関連性を分析し、意味のネットワークを究明する。研究結果として、以下の結論を得た。①「ゴリゴリ」の意味拡張によって修飾する用言の意味や範囲が変わり、助詞の選びにも影響が及ぶ。②「ゴリゴリ」の使用実態と辞書における説明には一定のズレがある。③「ゴリゴリ」のプロトタイプ的意味は3つのフレームに基づき他の意味に拡張していく。また、メタファーによるスキーマも抽出される。

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